レポート:ソフトウェアテストシンポジウム(JaSST'11 Tokyo)

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2011年1月25日(火)-26(水)、目黒雅叙園にてソフトウェアテストシンポジウム(JaSST'11 Tokyo)が開催されました。
ソフトウェアテストシンポジウムは、2003年の東京開催からスタートし、今年で8年目となるソフトウェアテストに携わる技術者のためのネットワーキングの場です。
私は諸事情により1日目(25日)のみの参加でしたが、その模様をレポートします。

基調講演:テスティングトレンドとイノベーション

今回の主催であるソフトウェアテスト技術振興協会(ASTER)による活動内容の説明の後、リー・コープランド 氏による基調講演が行われました。内容は、ソフトウェアテストに関する技術的なトレンドについて、以下の5つの観点から紹介されました。
  • プロセス
  • アジャイル
  • 教育
  • テクノロジーおよびツール
  • プロセス改善
コープランド 氏は、Software Quality Engineering社に所属し、テクニカルライターとして「A Practitioner's Guide to Software Test Design」を著作しています。
現在の活動の動機として、「テスターのコミュニティをつくりたい」との想いを語られました。
プロセスに関するトレンドとして、「Context-driven School」、「Checking vs. Testing」、「Crowdsourced Testing」、「The Weekend Testers」 、「Exploratory Testing」 と題して、考え方や事例を紹介されました。特に「Exploratory Testing(探索的テスト)」は、テストの取り組み方について考えさせられる内容でしたのでご紹介します。

Exploratory Testing(探索的テスト)

20クエスチョンズというゲームがあります。これはあなたの考えていることに対して約20個の質問をおこなうことにより、何を考えているかを当ててみせるというゲームです。実際にやってみると分かりやすいかもしれません。次のサイトに訪れてプレイしてみましょう。

どうですか?あなたの考えていたことは見事当てられたでしょうか?
ちなみにこれらの20個の質問は予め決められていたものでしょうか?
違うと思います。もしそうだとしたら正解率はグッと低くなるでしょう。
これをソフトウェアテストに置き換えて考えてみましょう。もしテストケースを予め20ケース用意しておいてそのテストを順番に20回実施した場合と、1つのケースを行ったあとで、そのテスト結果を前提に次のテストケースを実施した場合とどちらがバグを発見できる確率が高いと思いますか?
そうです、探索的テストとはテストを行う際に前回のテスト結果を考慮に入れて次のテストを行う方法です。

これは事前にテストケースを作らなくていいと言っている訳ではありません。バグという一種の答を見つけるために探索という行為をおこない、バグが潜んでいそうなテストケースに対してさらに深く掘り下げてテストを行うのです。
弊社でもテストを行う際に、「ざっくりテスト」と「じっくりテスト」にフェーズを二段階に分けてテストを行っていましたが、直感的にその方がバグを見つけやすいと感じていたためだと思われます。

E2:ツールベンダ vs ユーザによるディスカッション

日本ヒューレット・パッカード社(兼ASTER) 湯本 剛 氏をモデレータにパネルディスカッションが行われました。内容は、テストツールを提供するベンダ(リセラ)とテストツールを使うユーザをパネリストに迎え、お互いの立場から「日本でテストツールが浸透しない理由」についてディスカッションを行うというものでした。
ベンダ代表には、マイクロソフト社 長沢 智活 氏、富士設備社 浅野義雄 氏の2名。ユーザ代表には、SMG社 槙 信之 氏、ACCESS社 松木 晋祐 氏の2名が参加されました。また会場参加者にも赤・青・黄のパネルが配られ、会場全体で議論が行われる形をとっていました。(想定より参加者が多かったらしく、私にはパネルが回ってきませんでしたが・・w)

テストツールは本当に必要か?

まず最初に世界的なテストツールの利用状況について説明されました。欧米に比べると日本での利用率が低いことを踏まえ、「テストツールは本当に必要なのか?」について議論しました。
ベンダ側からは「テストをやらない選択肢はないのだから効率化の為にツールは必要」、「ツールはただの道具、必要なら使うべき」といった意見がでました。営業トークで是非使うべき!といった意見が出るかと思いきや、意外にドライな回答でした。
対するユーザ側からは「ツールがどうこうではなく、問題が解決できることが大事」、「環境構築コストが高くて使おうと思っても使えない」といった意見がでました。
つまり両者とも、”テストツール”というよりは”テストで解決するための問題”に焦点を当ててコメントされていました。その上で問題解決のためにツールを利用しようとするも、デモで行われる内容と実際の現場のパターンに乖離が大きく、ツールを現場に適用できない状況があることが浮き彫りになりました。

どうしたら日本でテストツールを浸透させられるか?

続いて「どうしたら日本でテストツールを浸透させられるか?」に議論が移りました。
ユーザ側は「現場で動くまでベンダーが面倒を見るべき」、「ツールを学ぶ場が少ないので増やすべき」、「ツールを使えることによるキャリア形成がない(新人仕事になっている)」といったことを挙げられました。
これに対し、ベンダ側は「実際に導入までサポートする体力はない(販売部隊は多くない)」、「それはもうベンダの仕事ではなくコンサルの仕事だ」といったリアリティのある回答をされていました。
解決アイデアとして、テストツールコンサルの出現、ベンダからの情報提供、といった意見を出しながら議論は進められました。
議論が飽和(停滞?)したところで、湯本氏による最後のまとめに入りました。ここでユーザ代表の松木氏から爆弾発言ともとれるコメントがありました。

日本の人月工数体制がツール利用による効率化に合わない!?

松木氏は、日本でツールが浸透しない理由について、現在の大手SIベンダによる受託型開発では、売り上げが人月工数で決まるため、ツールを導入し必要なテスト要員の削減が行われれば売り上げ減につながる根本的な問題があり浸透することが出来ないのでは?といった疑問を投げかけ(嘆かれ?)ました。
正直ツボに入りました。会場に「そう思う(赤)」「そう思わない(青)」「わからない(黄)」と意見を聞いている最中も、私の心の中では赤いパネル(パネルをもらえなかったので)を全力で掲げていました。
会場の意見はほぼ全員「そう思わない」といった回答でしたが、これは潜在的なものであり自覚している人は少ないのでは、というのが私の意見です。

A3:テクノロジーセッション(Oracle Testing)

オラクル社 Dan Koloski 氏によるOracle 製品のテクノロジーセッションが行われました。内容は、Oracle11gから導入されたアプリケーション品質管理機能を説明されました。
オラクルによる品質管理アプローチは、Oracle Application Testing Suite(ATS)によるベストプラクティスをツールで提供することでした。
ATSの機能として、SQL Performance AnalyzerによるSQLレスポンスタイムのユニットテストから、Oracle Test Managerによるテストプロセスの管理まで幅広い機能を紹介されました。
ハードウェアからアプリケーションまでの統合的なテスト管理のソリューションを提供できるのはオラクルならではといった感じでした。

E4:自動テストツールの評価セッション

本セッションは3つの講演から構成されていました。自動テストに関して、フォーラムエイト社 増田 隆 氏、デジタルクラフト社 金 ハンソル氏、文京工機社 山本 健 氏 からそれぞれ事例紹介、研究発表といった内容で講演が行われました。

増田 氏は、「UWSCを用いた自動回帰テストの評価」と題して自動化テストツール「UWSC」の事例紹介を行いました。UWSCはWindowsアプリケーションのための自動化ツールでありマウスの操作といったGUIで行われる内容を記録し繰り返しテストを行うツールです。講演では、土木関連の図面設計WindowsアプリケーションをUWSCで操作、画像保存し、画像の差分から回帰テストを行う事例を紹介されました。

金 ハルソン 氏は、「組み込みリアルタイムOS向け自動テストツールのマルチプロセッサ拡張」と題して研究発表を行いました。組み込み向けとはいえ、OSのテストではmillisec単位の操作が要求され、マルチプロセッサに対応するための同期処理など非常にレベルの高い発表を聞くことができました。

ウェブアプリケーションとソーシャルアプリの違い

山本氏は、「ソーシャルアプリケーションのテスト法」と題して昨今のソーシャルアプリ界隈の諸事情およびモバゲー「ケータイモンスターR」の自動テストについて紹介されました。
ソーシャルアプリケーションは、SNSなどのコミュニティをプラットフォームとし、ユーザ同士の繋がりや交流関係を機能に活かしたウェブアプリケーションです。
講演では、ウェブアプリケーションとソーシャルアプリケーションの違いについて以下のように説明されました。
  • 寿命が短い傾向がある(携帯向けゲームなど)
  • SNSプラットフォームのゲートウェイを通ってサービスが稼働する
  • ユーザ同士の通信が密に発生し、タイミングによる予期せぬ不具合が発生しやすい
特にSNSプラットフォーム側で内容をチェックされる仕組みがあることは開発環境を用意することが難しくテスターにとって悩みの種のようでした。

まとめ

今回、ソフトウェアテストシンポジウムの主に自動テストツールをテーマにしたセッションに参加させていただきました。
コープランド氏によるイノベーションとトレンドの紹介を通して未来のイノベーションの創出を我々に期待した講演は、技術者にとって非常にワクワクさせるものでした。
湯本氏によるテストツールの浸透をテーマにしたディスカッションは、我々ユーザにツールに対する取り組み方を考えさせるものでした。
Dan Koloski 氏によるオラクルによる品質管理アプローチは、テクノロジーとしてのソフトウェアテストツールの発展を示唆する内容でした。
増田 隆氏、ハンソル氏、山本 健氏の自動テストツールの活用事例は、ソフトウェア開発者に自動化ツールの魅力を伝えたすばらしい内容でした。
1日という短い時間でしたが、ソフトウェアテストシンポジウムに参加して充実した楽しい時間を過ごすことができました。また是非参加したいと思います。


編集後記

はじめまして、シャノンの西野と申します。
私は弊社の主力Webサービスであるスマートセミナーの品質管理を担当しています。今回のシンポジウムは、非常に楽しく、いろいろと勉強させていただきました。会場で名刺交換させていただいた松木様、山本様にはこの場でお礼を申し上げます。
はじめての会社公式ブログ投稿ということで、客観的にレポートすることを心掛けましたがまだまだ残念(ry
次回はテストツールについて投稿を予定しています。
今後ともよろしくお願いいたします。
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